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大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)2613号 判決 1967年3月17日

原告 旧商号 大阪栄養工業株式会社 日本卵業株式会社

被告 大平信用組合

主文

本件訴のうち、大阪高等裁判所昭和三三年(ネ)第八六六号不当利得償還請求事件につき、同裁判所が昭和三六年三月三一日言渡した確定判決において、別紙記載のとおり原告の請求を認容した部分は、これを却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

原告

一、被告は原告に対し

1  金五、八七一、〇〇〇円

2  右金員に対する昭和二八年一一月二〇日から支払ずみまで年五分の割合の金員

3  金一、八六四、〇〇〇円に対する昭和三三年六月一日から昭和三九年一月二四日まで年五分の割合の金員を各支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、仮執行の宣言。

被告

本案前の申立及び理由

一、本件訴を却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

原告、被告間には、本訴において原告の主張する不当利得返還請求および損害賠償請求について、最高裁判所昭和三六年(オ)第六六三号不当利得償還請求事件の確定判決(事実審口頭弁論終結時は、昭和三六年一月一三日)がある。

これによつて、原告の請求は、別紙判決のとおり確定された。

従つて原告は本訴につき訴の利益を欠くから訴の却下を求める。

本案についての申立

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

原告(請求の原因)

一、被告は昭和三五年三月一日、訴外信用組合大阪華銀(以下華銀という。)を吸収合併し、華銀の権利義務の一切を承継した。

二、原告は華銀に対し、昭和二八年二月一九日から同年三月上旬までの間に、華銀の預金不足を糊塗するため現実の商取引に基かない、単に事実預金があるかの如く粉飾する目的に限つて、振出人原告、受取人華銀、その余を白地とするいわゆる「ドレス金融」用小切手八通を振出し交付した。

三、しかるに華銀は、右特約に反し右白地小切手八通に、順次、同年二月二八日、金五四〇、〇〇〇円、三月三日、金九〇〇、〇〇〇円、三月一四日、金一八〇、〇〇〇円、三月一九日、金一八〇、〇〇〇円、三月二〇日、金九〇〇、〇〇〇円、三月二一日、金一、九五〇、〇〇〇円、三月三〇日、金五八五、〇〇〇円、三月三一日、金二、五〇〇、〇〇〇円と記載したうえ、これらの小切手を氏名不詳の第三者から支払のため呈示を受けたので、現実に支払をなしたと称し、右合計金七、七三五、〇〇〇円を原告に対し請求したが、その後右債権を訴外株式会社三和銀行に譲渡した。

四、そこで原告は、(右経緯を知悉している原告側の唯一の人物、経理担当代表取締役平田文彬が精神異常、行方不明となつたため)事情が不明であるので、やむなく異議を留めて昭和二八年一一月一九日、訴外株式会社三和銀行に対し金七、七三五、〇〇〇円を支払つた。

五、被告は原告に対し、昭和三九年一月二四日、右金七、七三五、〇〇〇円のうち元金一、八六四、〇〇〇円およびこれに対する右不当利得の日の翌日である昭和二八年一一月二〇日から昭和三三年五月三一日までの遅延損害金四二二、〇八一円合計金二、二八六、〇八一円を支払つた。

六、よつて原告は被告に対し、次の金員の支払を求める。

1  残不当利得金五、八七一、〇〇〇円

2  右金員に対する昭和二八年一一月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金

3  前記金一、八六四、〇〇〇円に対する昭和三三年六月一日から昭和三九年一月二四日まで年五分の割合による遅延損害金

被告(請求原因事実に対する認否)

請求原因事実第一項のうち原告が華銀に対し、昭和二八年二月一九日から同年三月上旬までの間に振出人原告、受取人華銀その余を白地とする小切手八通を振出し、交付したこと、同第二項のうち華銀が原告に対する金七、七三五、〇〇〇円の債権を訴外三和銀行に譲渡したこと、同第三項のうち、原告が昭和二八年一一月一九日訴外三和銀行に対し金七三五、〇〇〇円を支払つたこと、同第四、第五項の全部はいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

被告(抗弁)

華銀即ち被告は、昭和三四年五月一八日大阪地方裁判所昭和三三年(コ)第四号和議事件の前記和議条件による和議認可決定を受け右決定は、同年六月一一日確定したから当然、前記和議条件のとおり原告主張の債務は変更された。

原告(抗弁事実に対する認否)

華銀即ち被告が昭和三四年五月一八日大阪地方裁判所昭和三三年(コ)第四号和議事件の前記和議条件による和議認可決定を受け、右決定が同年六月一一日確定したことは認める。

原告(再抗弁)

原告は他の和議債権者に対する関係では、昭和三五年一二月三一日履行が完了したにも拘らず被告が右和議の履行をしないので、被告に対し、昭和三六年五月二四日および昭和三九年一月二〇日到達の各内容証明郵便をもつてそれぞれ和議譲歩取消の意思表示をした。

被告(再抗弁事実に対する認否)

原告主張の再抗弁事実は認める。但し原告は和議譲歩取消の意思表示を前記確定判決における既判力の標準時、即ち、昭和三六年一月一三日以前に、なし得たのにこれをしなかつたのであるから、右各和議譲歩取消の意思表示は無効である。

被告(再々抗弁)

一、被告が右和議の履行をしなかつたのは、原告において昭和三六年五月二四日到達の内容証明郵便で和議譲歩取消の意思表示をしながら、昭和三八年一二月八日到達の書面では、前記和議条件の範囲内の昭和三九年一月一二日到達の書面では和議譲歩取消の範囲内の各金員の支払を求めたため、被告としてはそのいずれに従うべきか判断に迷つたためであり被告には、和議の不履行につき、責に帰すべき事由はない。

二、原告は、昭和三九年一月二四日前記金二、二八六、〇八一円を、異議を留めず全債務の弁済として受領したのであるから、この時、被告に対し、右和議譲歩取消の意思表示を撤回したものというべきである。

原告(再々抗弁事実に対する認否)

再々抗弁事実第一項のうち被告主張の如き三通の書面が被告主張の時にそれぞれ到達したことは認めるが、その余の事実および同第二項は否認する。

第三証拠<省略>

理由

一、まず本件訴につき訴の利益が存するか否かにつき判断する。

1  本件記録によれば、本件訴訟が原告の被告に対する、前記請求原因事実記載の如き不当利得返還請求および損害賠償請求であることは明らかである。

2  成立に争いのない甲第一号証の一、二によれば、原告被告間には、既に右と同一の訴訟物につき被告主張の如き確定判決が存在することが認められる。

3  原告は、「右確定判決は、原告において和議譲歩取消の意思表示をしたことにより、無効となり、本訴は右確定判決の既判力に抵触しない。」と主張する如くである。しかし、右確定判決のうち、原告の請求を認容した部分は、和議譲歩取消の意思表示が有効になされたとしても、これにより、何等影響を受けるものではない。

つぎに、右確定判決のうち、原告の請求を棄却した部分につき考察する。

成立に争いのない甲第一号証の一によれば、前訴における既判力の標準時即ち事実審口頭弁論終結時が昭和三六年一月一三日であることが認められ、華銀即ち被告が昭和三四年五月一八日大阪地方裁判所昭和三三年(コ)第四号和議事件の、被告主張の如き和議条件による和議認可決定を受け、右決定が同年六月一一日確定したこと(この事実によれば前記不当利得返還請求権および損害賠償請求権が右和議条件のとおりに変更されたことが推認できる。)および被告が他の和議債権者に対する関係では昭和三五年一二月三一日和議の履行を完了したにも拘らず、原告に対し右和議の履行をしないので、原告において被告に対し昭和三六年五月二四日および昭和三九年一月二〇日到達の各内容証明郵便をもつて、それぞれ右和議の譲歩の取消の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。

右各事実によれば、原告は前訴の事実審の口頭弁論終結時である昭和三六年一月一三日までに和議法第六二条破産法第三三〇条による和議譲歩の取消権が存在し、かつ、これを行使し得たにも拘らず、前訴でこれを主張しなかつたこと、および、そのため、右和議条件の範囲内において原告の請求が認容され前訴判決が確定したところ、その後、口頭弁論終結後に右取消権を行使してその効果を主張していることが認められる。このような場合、原告は訴訟法上、既判力の時的効果として、もはや取消権を行使して不当利得返還請求権および損害賠償請求権の存否を争うことは、許されないものと解すべきである。

二、そうすると、本訴と前訴とは当事者ならびに訴訟物が同一であり、しかも前訴は、有効に確定判決として存在しているのであるから、当裁判所は、既判力の物的効果として、前訴確定判決の主文で確定された権利又は法律関係の存否につき拘束される。そして、本件訴のうち、前訴の確定判決において、原告の請求が認容された部分については、他に特段の事情が存しない限り、原告は既に確定の給付判決を得ているのであるから権利保護の利益なきものとして、訴却下の判決を、その余の原告の請求が棄却された部分については、請求権の不存在が既に確定されているのであるから、再び請求棄却判決を、なすを相当とする。

よつて、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本保三 山本矩夫 増井和男)

別紙

判決

「被控訴人(=本訴被告)は控訴人(=本訴原告)に対し金七、七三五、〇〇〇円およびこれに対する昭和二八年一一月二〇日から支払ずみまで年五分の割合の金員を、債務者信用組合大阪華銀右代表者黄雲水に対する大阪地方裁判所昭和三三年(コ)第四号和議事件の和議認可決定において定められた和議条件の範囲内において、支払え。

控訴人(=本訴原告)のその余の請求を棄却する。」

和議条件

「一、昭和三二年一〇月二四日開催の債権者会合の決定を承認して、昭和三二年九月二七日現在の債権額に対し一〇、〇〇〇円およびその差額の五%の未払分を支払う。

二、和議債権額(第一項のものを除く。)に対してその二〇%を支払うものとし、うち一五%は昭和三四年五月三〇日に、残りの五%は同年一二月二一日に支払う。

三、第一項、第二項の支払をなした残余の債権に対しては、本和議認可決定確定日現在の申立組合の財務諸表に計上された資産(第一および第二項の支払引当分を除く。)を昭和三五年一二月三一日までに整理して、これを支払う。

四、和議債権に対する昭和三三年六月一日以降の利息は之を免除する。

五、第一、第二および第三項によつて支払をした残債権は免除する。」

以上

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